デジタルカメラで人物を撮影する際、「仕上がり設定」に「ポートレート」を選択する人も多いことだろう。実際のところ、この「ポートレート」は、人物を撮るのに本当に適しているのだろうか? 人物写真にどのような効果をもたらすのかを、ニコン「Z8」を用いて検証してみた。
今回は、ニコンのフルサイズミラーレスカメラ「Z8」と、開放F4通しの標準ズームレンズ「NIKKOR Z 24-120mm f/4 S」を使用した。「NIKKOR Z 24-120mm f/4 S」は、ポートレート撮影では焦点距離120mmの中望遠まで対応できるのがうれしい。重量も約630gと軽量なので軽快に撮影に臨める
掲載する写真作例について
写真はすべてJPEG形式(最高画質)で撮影しています。
何となく「ポートレート」を選んでいない?
デジタルカメラは一般的に、シーンや被写体に応じて写真の色調を選択できる機能として「仕上がり設定」を搭載している。「仕上がり設定」はメーカーによって名称が異なっており、ニコンは「ピクチャーコントロール」と名付けている。
「ピクチャーコントロール」などの「仕上がり設定」は、メーカーや機種によって細かいところが異なるものの、「スタンダード」「ニュートラル」「ビビッド」といったプリセットを利用できる点と、コントラストや彩度、シャープネス、色合いといった色調に関わる項目を調整できる点は共通している。
そして、大抵のメーカー/機種で、人物撮影用のプリセット「ポートレート」を利用できるのも同じだ。その名称から人物撮影時に当たり前のように選んでしまいそうだが、はたしてこの「ポートレート」は、ほかのモードとどんな違いがあるのだろうか?
ニコンは「仕上がり設定」として「ピクチャーコントロール」を用意。この画像は、「Z8」の「ピクチャーコントロール」の選択画面だ。人物撮影用の「ポートレート」を選べる
「ポートレート」と「スタンダード」の違いを比較
まずは、「ポートレート」と標準的な設定の違いから見てこう。
以下に、「ピクチャーコントロール」の「ポートレート」と「スタンダード」を使って同じ被写体を撮影した作例を掲載する。
ポートレート
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、50mm、F4、1/500秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
スタンダード
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、50mm、F4、1/500秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
ポートレート
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、54mm、F4、1/640秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
スタンダード
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、54mm、F4、1/640秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
人物に寄って撮った場合と、引いて撮った場合の2パターンを試してみたが、どちらも「ポートレート」は全体的にコントラストが低く、暗部が少し明るく起こされている。「スタンダード」と比べると、特に、肌に生じる影の濃さに大きな違いが見受けられる。低コントラストの影響で、全体的に落ち着いた色(彩度)になっているのもポイントだ。
「Z8」の活用ガイドを見ると、「ポートレート」は「人物の肌が滑らかで自然な画像になる」と書かれている。肌色そのものの出方には触れられておらず、トーンに影響する設定と考えてよいだろう。上の比較作例を見れば、まさしく肌を滑らか、かつ自然な仕上がりで再現することがわかるはずだ。肌の質感を重視しているので、特に寄りで撮る場面で持ち味を発揮すると言えるだろう。
光の当たる向きが変わるとどうなる?
続いて、光の当たる向きを変えて「ポートレート」と「スタンダード」を比較してみた。
順光/ポートレート
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、83mm、F4、1/800秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
順光/スタンダード
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、83mm、F4、1/800秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
半逆光/ポートレート
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、83mm、F4、1/320秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
半逆光/スタンダード
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、83mm、F4、1/320秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
日陰/ポートレート
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、69mm、F4、1/80秒、ISO800、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
日陰/スタンダード
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、69mm、F4、1/80秒、ISO800、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
順光は元々硬い光なので、肌の質感は粗い仕上がりになるが、それでも「ポートレート」を適用することで軟調に仕上がっている。ハイライト側も若干だが、飛び気味のところが抑えられている。
「ポートレート」の効果をより大きく実感できたのは、半逆光や日陰でのシーンだ。日の直接当たらないところで肌の質感が明るく滑らかに仕上がっている。利用する光の内容によっても効果の印象が変わりそうだ。
メリハリのある描写が特徴の「リッチトーンポートレート」
「Z8」の「ピクチャーコントロール」には、人物撮影用として「ポートレート」のほかに「リッチトーンポートレート」という新しいモードも用意されている。このモードと「ポートレート」「スタンダード」との違いを検証してみた。
「リッチトーンポートレート」は、「Z8」のファームウェアVer2.00で追加された。「Z9」や「Zf」などでも利用できる
リッチポートレート
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、69mm、F4、1/80秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
ポートレート
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、69mm、F4、1/80秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
スタンダード
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、69mm、F4、1/80秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)
「ポートレート」は肌をふんわりやわらかく描写してくれるが、ややフラットに仕上がる。いっぽう、「リッチトーンポートレート」では「ポートレート」よりも肌のディテールを保持しつつ、よりメリハリのある描写が得られている。ディテールを優先しながら白飛びを抑えた豊かな肌再現を行いたいときに効果的だろう。うまく使い分けたい機能だ。
肌をより滑らかに描写する「美肌効果」
ここからは、「Z8」などニコンの最新ミラーレスが持つ、人物撮影用の独自機能を紹介していこう。
まず押さえておきたいのが「美肌効果」だ。これは、カメラが人物の顔を検出した場合に、肌が滑らかになるように自動で補正してくれる機能。今回は、「ピクチャーコントロール」を「ポートレート」に設定して「美肌効果」の効果を確認した。
「美肌効果」は「強め」「標準」「弱め」の3段階から効果を選べる
美肌効果:しない
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/200秒、ISO320、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート
美肌効果:弱め
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/200秒、ISO320、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート
美肌効果:標準
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/200秒、ISO320、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート
美肌効果:強め
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/200秒、ISO320、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート
「美肌効果」は、目や髪の部分のシャープさを保ったまま、肌のみを滑らかに調整してくれるのがポイント。「強め」「標準」「弱め」の各段階に設定して撮ってみたが、「強め」でも違和感のない仕上がりになった。「ポートレート」に限らず、「リッチトーンポートレート」やコントラストのある「スタンダード」などでも重宝するだろう。これも、やはりバストアップ撮影時など、肌の質感の見せ方が重要な場面で活用したい機能だ。
少し注意したいのは、RAW現像ソフト「NX Studio」での「美肌効果」の使い方。2024年8月5日時点では、「美肌効果」を「しない」で撮影した場合、RAW現像時に効果を追加できない。逆に、「美肌効果」をオンにして撮影しておけば現像時にオフに変更できる。RAW現像で調整して仕上げたい場合は、「美肌効果」をデフォルトでオンにして撮影しておくとよいだろう。
肌色を調整する「人物印象調整」も用意
「Z8」などニコンの最新ミラーレスには、人物の色相(マゼンタ、イエロー)と明るさを補正できる「人物印象調整」という機能も用意されている。「ピクチャーコントロール」の「ポートレート」は肌のトーンを調整する機能だが、「人物印象調整」は肌色そのものを調整する機能だ。
「人物印象調整」は「Z8」などニコンの多くのミラーレスに搭載されている
人物の色相(マゼンタ、イエロー)と明るさを2軸で調整できる。横軸(M-Y)と縦軸(明るさ)で±3段の振り幅がある。また、調整したモードは3つまでカメラ内に登録して利用できる
M3(マゼンタ)に調整
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/160秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
Y3(イエロー)に調整
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/160秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
上の作例は「人物印象調整」を利用し、色相のみを変更して撮ってみた。具体的には、肌色の色相であるマゼンタとイエローに対して調整を加えている。人物の肌色が目立って変化して見えるが、画面全体でマゼンタとイエローの色相が調整されている。機能名には“人物”とあるが、肌色以外にも影響が出るようなので、その点は注意したい。
使い方のポイントは、明るさを調整して色の濃度を変えられること。以下の作例をご覧いただきたいが、明るさをうまく設定することでより自然な色合いを演出できる。
M1、明るさ+1で撮影
「リッチトーンポートレート」に設定し、「美肌効果(標準)」を適用して撮影。木陰を利用しているため、やや肌の色が黄色く色被りするシチュエーションだったが、「人物印象調整」で明るめにマゼンタを少し加え、赤みのある自然な肌色に仕上げた
Z8、NIKKOR
Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/250秒、ISO320、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
肌色の調整は「ピクチャーコントロール」の詳細設定を活用しよう
ニコンの最新ミラーレスで人物の肌色を調整するには、「ピクチャーコントロール」の詳細設定機能を使ってみよう。
「ピクチャーコントロール」は、仕上がりに関する項目を自分好みに設定できる仕組みを採用している。人物の肌色を調整したいときは、このなかにある色合い(色相)を操作しよう。カーソルをマイナスにすると赤みが強くなり、プラスにすると黄色みが強くなる。
明るさやコントラスト、彩度、シャープネスなども微調整できるので、よりこだわった画作りを行いたい場合に有効だ。気に入った設定は「カスタムピクチャーコントロール」として登録・保存して継続利用できる。
「ピクチャーコントロール」内の「ポートレート」の詳細設定画面。色合い(色相)は±3の振り幅で調整できる
色合い:-3(マゼンタ強め)
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/160秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート
色合い:+3(イエロー強め)
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/125秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート
上の2枚の作例は、「ピクチャーコントロール」の「ポートレート」を利用し、詳細設定で色合いを変更したもの。このように肌色の出方が大きく変化する。寄りで撮る際などにうまく扱いたい。
「ポートレート」の詳細設定で赤みの強い色合い(-3)に調整した。この機能も当然ながら肌色にのみ影響するわけではないので注意したい。ここでも、白いワンピースが少し赤被りしている
Z8、NIKKOR Z
24-120mm f/4 S、34mm、F4、1/1000秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート
そのほかの作例
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/1600秒、ISO320、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート(色合い:-1)、美肌効果:標準
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、34mm、F4、1/320秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート、人物印象調整:M1、明るさ+1
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/320秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート(コントラスト:+1、色の濃さ:+2、色合い:-2)
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、32mm、F4、1/1250秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、69mm、F4、1/80秒、ISO800、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:ポートレート
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、33mm、F4、1/80秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、69mm、F4、1/1000秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:スタンダード
Z8、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、120mm、F4、1/160秒、ISO320、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート、美肌効果:標準
まとめ 「ポートレート」は“寄り”と“やわらかい光”で特に効果的
今回は、人物撮影で「ピクチャーコントロール」の「ポートレート」が本当に適しているのか見てみたが、いかがだっただろうか?
「ポートレート」は肌の質感描写に重きを置いたプリセットで、被写体に寄って、かつ光のやわらかいシーンでとても効果的であることがよくわかった。最終的には表現意図に合わせて選ぶことになるが、人物撮影ではかなり有効なのは間違いない。
ちなみに、この「ポートレート」はメーカーによってもテイストが異なるのだが、基本的に人物の肌の再現性に重点を置いている部分は共通している。今回見たように、ニコンは肌の質感の出方に注目していてトーンがやわらかい。メーカーによってはメリハリのある肌質になる「ポートレート」もあるし、肌色の出方にも特徴を持たせた「ポートレート」もある。結局、それがメーカーごとの個性につながっている。
何となく「ポートレート」を使っている人は、ぜひ自分のカメラでその持ち味を改めて確認してみてほしい。人物撮影のスキルアップに通じるはずだ。
モデル:遥野
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