シグマからまた面白いレンズが登場した。フルサイズ対応としては世界初の「開放F1.8通し」を実現した大口径・標準ズームレンズ「28-45mm F1.8 DG DN | Art」だ(2024年6月4日発売)。Lマウント用とソニーEマウント用の2種類がラインアップされているが、今回はLマウント用を試用して、その使用感と実力をレビューしよう。
シグマのフルサイズミラーレスカメラ「fp L」と組み合わせて「28-45mm F1.8 DG DN」を試用。専用の電子ビューファインダー「EVE-11」とハンドグリップ「HG-11」を装着して、フル装備の出で立ちで撮影に臨んだ
掲載する写真作例について
写真はすべてJPEG形式(最高画質)で撮影しています。ボディ側のレンズ光学補正は、歪曲:オート、倍率色収差:オート、回折:オフ、周辺光量:オートに設定しています。
未知のスペックを備えた孤高のズームレンズ
「28-45mm F1.8 DG DN」の最大の特徴は、何といっても、焦点距離28~45mmのズーム全域で開放絞り値F1.8を実現したこと。2024年9月11日時点では、フルサイズ対応のズームレンズとして最も明るいスペックだ。複数の大口径・単焦点レンズを1本でまかなうような使い方ができるのが魅力である。
開放F1.8通しの標準ズームとしては、2013年にシグマから登場した、APS-C一眼レフ用の「18-35mm F1.8 DC HSM」を思い浮かべる人もいることだろう。一眼レフ用とミラーレス用という違いはあるものの、今回取り上げる「28-45mm F1.8 DG DN」は、「18-35mm F1.8 DC HSM」の後継機と見ることもできる。
コンパクトな「fp L」と組み合わせたイメージ。さすがに開放F1.8通しのズームレンズだけあって大きな筐体だ
本レンズのサイズは87.8(最大径)×151.4(全長)mmで、重量は960g(いずれもLマウント)。「フルサイズ対応ズームで開放F1.8通し」を実現しているだけあって大きくて重いが、スペックを考慮すると1kgを切っているのはコンパクトな部類と言えるだろう。
レンズ先端からフォーカスリング、ズームリング、絞りリングを搭載。絞りリングのA(オート)はカメラ側で絞りを調整する際に使用する
シグマのなかでは最上位に位置する「Art」ラインのレンズだけあって操作性は充実しており、絞りリングを搭載するほか、絞りリングのクリックの有無を切り替えられるスイッチや、絞りリングをロックするスイッチも装備。好みの機能を割り当てられるAFLボタンも2つ備わっている。
筐体左手側に「フォーカスモード切換えスイッチ」と「絞りリングクリックスイッチ」を用意
右手側には「絞りリングロックスイッチ」が搭載されている。ロックすると、Aポジションでの固定、またはAポジション以外での固定が可能になる
AFLボタンも2つ搭載されている
使い勝手で注目したいのはインナーズーム機構を採用していること。どの焦点距離でも全長が変化しないため、撮影時のバランスが取りやすい。塵や水滴も入りにくい構造だ。動画撮影に配慮し、ピント移動による画角変化(フォーカスブリージング)を抑制する設計を採用しているのも特徴である。
レンズフードは花型の「LH878-06」が同梱されている
気になる絞り開放の写りをチェック
ここからは「28-45mm F1.8 DG DN」の画質をレビューしていこう。
最も気になるのは開放F1.8での写りだ。「Art」ラインのズームレンズなので絞り開放から描写力は高いと予想できるが、どのくらい写るのかは気になるところ。以下に絞り開放で撮影した写真をいくつか掲載する。
28mm/F1.8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、28mm、F1.8、1/8000秒、ISO100、ホワイトバランス:曇り、カラーモード:風景
28mm/F1.8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、28mm、F1.8、1/3200秒、-0.3EV、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、カラーモード:風景
28mm/F1.8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、28mm、F1.8、1/8000秒、-1.0EV、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、カラーモード:ウォームゴールド
45mm/F1.8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、45mm、F1.8、1/800秒、+0.3EV、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、カラーモード:風景
広角端でも望遠端でも、絞り開放からピント位置の解像感は非常に高い。ピントを合わせた部分はカリッとシャープに写っている。それでいて、ボケが滑らかでやわらかいのがすばらしい。これなら、ボケを生かして撮りたい場合でも、画質を気にせず画作りに集中できるだろう。
次に、望遠端の絞り開放で遠景を撮影した写真をご覧いただきたい。F1.8という絞り値にも関わらず、建物の輪郭は非常にシャープ。驚くことに、画面の中央部だけでなく周辺部でも高い解像感が得られている。周辺光量は多少落ちるものの許容範囲で、画作りに生かしてみたいと思える程度だ。なお、周辺光量落ちはF2.8程度にまで絞れば改善する。
45mm/F1.8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、45mm、F1.8、1/8000秒、ISO100、ホワイトバランス:曇り、カラーモード:風景
45mm/F2.8で撮影
近接撮影×F1.8のとろけるボケを実感
「28-45mm F1.8 DG DN」は、最短撮影距離がズーム全域で30cmと比較的短いのも特徴だ。最大撮影倍率は望遠端で1:4。F1.8の明るい絞り値と組み合わせることで、大きくて美しいボケを描写に取り込める。
28mm/F1.8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、28mm、F1.8、1/800秒、-0.3EV、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、カラーモード:スタンダード
45mm/F1.8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、45mm、F1.8、1/800秒、-0.3EV、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、カラーモード:スタンダード
28mm/F1.8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、28mm、F1.8、1/2000秒、+0.3EV、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、カラーモード:スタンダード
45mm/F1.8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、45mm、F1.8、1/50秒、+0.3EV、ISO1000、ホワイトバランス:AWB、カラーモード:スタンダード
そのほかの作例をチェック
「28-45mm F1.8 DG DN」は、大口径レンズらしく暗所で利用しやすいのも特徴だ。以下の写真は、かなり暗いシーンでシャッターを切っているが、F1.8の絞り値を選択することで、手持ちでぶらさずに撮影できた。
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、45mm、F1.8、1/80秒、-0.3EV、ISO6400、ホワイトバランス:AWB(色残し)、カラーモード:スタンダード
本レンズはリニアモーター「HLA(High-response Linear Actuator)」を採用しており、AFは高速・高精度。子どもを撮影してみたが、ピントを瞳にしっかりと合わせながら撮影できた。
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、45mm、F1.8、1/400秒、ISO1600、ホワイトバランス:AWB(色残し)、カラーモード:ウォームゴールド
絞り開放からよく写るレンズなので、絞ったときも高画質だ。以下の2枚の写真は、広角端と望遠端で、絞り値F8で撮影したもの。周辺までかっちりと写っている。
28mm/F8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、28mm、F8、1/400秒、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、カラーモード:風景
45mm/F8で撮影
fp L、28-45mm F1.8 DG DN、45mm、F8、1/400秒、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、カラーモード:風景
まとめ 広角から標準域までF1.8で撮れる利便性に注目したい
「28-45mm F1.8 DG DN」は、ズーム全域で開放F1.8という、非常に個性的なスペックを備えた標準ズームだ。画質は、絞り開放から各種収差がよく抑えられており、「Art」ラインらしい写りが楽しめる。レンズの剛性感や耐久性にもすぐれており、信頼できる1本だと感じた。
本レンズを選ぶうえで気になるのは、カバーする焦点距離(28~45mm)だろう。標準ズームとしてはズーム域がやや狭く、広角側も望遠側ももう少し幅を持たせたいと思う人も少なくないはずだ。
ただ、本レンズを、一般的な標準ズームではなく、複数の大口径・単焦点レンズを束ねたようなレンズととらえると少し見方が変わる。レンズを交換することなく広角から標準域までF1.8で撮れるのは、単焦点レンズを複数本持ち歩くことを考えると利便性が高い。それぞれの焦点距離でF1.8の明るさをどう生かすかが、本レンズを効果的に利用するうえで欠かせない考え方になってくるだろう。
Lマウント用の価格.com最安価格(2024年9月11日時点)は22万円台(税込)。決して安くはないが、唯一無二のスペックを持つ、ハイクラスの大口径ズームとしては妥当な価格ではないだろうか。
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