28,000円台(税込、2024年9月24日時点での価格.com最安価格)で手に入れられる、格安の大口径レンズ「RF50mm F1.8 STM」
「RF50mm F1.8 STM」は、キヤノンが2020年12月24日に発売した、RFマウント用のフルサイズ対応・標準レンズ。焦点距離50mm、開放絞り値F1.8と、スペックだけを見れば平凡な単焦点レンズにしか思えませんが、実はこのレンズ、価格.com「レンズ」カテゴリーの人気売れ筋ランキングで長期にわたって上位をキープする超人気モデルなんです。
今回は、そんな「RF50mm F1.8 STM」の人気の秘密を改めて考えてみたいと思います。
「RF50mm F1.8 STM」の人気売れ筋ランキングの推移を示すグラフ(2024年3月25日~9月22日)。2024年5月以降はトップ3をキープしています
「撒き餌レンズ」を継承した「RFレンズ」最安モデル
まずは、「RF50mm F1.8 STM」の立ち位置とヒストリーについて触れておきましょう。
知っている人はよく知っていると思いますが、「RF50mm F1.8 STM」は、カメラファンの間で「撒き餌レンズ」という異名で親しまれてきた、キヤノンの「50mm F1.8レンズ」の系譜です。なぜ「撒き餌」なのかというと、手に入れやすい価格ながら非常によく写るため、このレンズを手に入れると単焦点レンズの面白さに目覚めてしまい、ほかの単焦点レンズが次々と欲しくなってしまうからと言われています。
「撒き餌」というと、ともするとマイナスのイメージに受け取られかねないのですが、多くの人に標準単焦点レンズの門戸を開いているという意味では、やはり好意的な異名ととらえたほうが自然だと思います。
「RF50mm F1.8 STM」は、「撒き餌レンズ」(ほめ言葉)の系譜を受け継いだ最新型です
キヤノンの「50mm F1.8レンズ」の歴史は昭和からスタートします。初代モデルは、1987年(昭和62年)に発売された、一眼レフ用の「EF 50mm F1.8」。5群6枚構成の伝統的な標準レンズとして好評を博しました。その後、平成になって1990年(平成2年)に登場したII型の「EF 50mm F1.8 II」で人気が爆発。光学系はそのままに、距離計窓が省略され、マウントも金属製から樹脂製へと変更されましたが、実質1万円前後で買えるコストパフォーマンスの高さが魅力で、「撒き餌レンズ」の愛称もII型から付けられたと記憶しています。
「EF 50mm F1.8 II」は「撒き餌レンズ」として長らく親しまれましたが(筆者もずいぶん愛用させていただきました)、2015年(平成27年)には3代目の「EF50mm F1.8
STM」が登場。金属マウントが復活したほか、新たにステッピングモーター(STM)を採用するなどして使い勝手も大きく向上しました。ちなみにこのレンズは現行品で、2024年9月24日時点での価格.com最安価格は15,000円台(税込)。安い!
「RF50mm F1.8 STM」では、ミラーレス時代にあわせて高性能化・高機能化が図られています
そして、ミラーレスカメラ「EOS Rシリーズ」が誕生し、2020年(令和2年)にRFマウント用として登場したのが本レンズ「RF50mm F1.8 STM」というわけです。金属マウントにステッピングモーターという仕様は「EF 50mm F1.8 STM」と同じ。レンズ構成やコーティングはミラーレスに最適化されています。2024年9月24日時点での価格.com最安価格は28,000円台(税込)です。
一眼レフ用に比べると価格は高くなっていますが、現時点では「RFレンズ」のなかで最も安い製品です。ミラーレス用のAFレンズで調べてみても、フルサイズ対応の「50mm F1.8レンズ」として最安です。昨今のカメラ・レンズ製品の価格高騰を考えれば、やっぱり驚きの安さだと思います。「撒き餌レンズ」の面目躍如といったところではないでしょうか。
小柄で親しみやすいサイズ感
ここからは、「RF50mm F1.8 STM」の特徴をレビューしていきます。今回は、フルサイズミラーレスの入門機「EOS R8」と組み合わせてみました。
「RF50mm F1.8 STM」をフルサイズミラーレス「EOS R8」と組み合わせたイメージ
本レンズのサイズは約69.2(最大径)×40.5(全長)mmで、重量は約160g。開放絞り値がF1.8と、大口径レンズとしてはやや暗めではありますが、往年の(フィルム一眼レフ全盛時の)標準レンズ「50mm F1.4レンズ」を彷彿とさせる大きさに収まっているのが魅力です。
近年のミラーレス用の「50mm F1.4レンズ」は極限まで光学性能を追い込むなど高性能化が進んでおり、必然的に大型化しています。小型・軽量なミラーレスとのバランスを考えると、本レンズのサイズ感は、「THE標準レンズ」と呼びたくなるたたずまいを残しているように感じます。
レンズ構成は5群6枚。枚数は一眼レフ用と同じですが、ショートバックフォーカスのRFマウントに構成を最適化したうえ、PMo(プラスチックモールド)非球面レンズを1枚配置することで一眼レフ用を超える高画質を実現しています。
使い勝手では、一眼レフ用と同じ全群繰り出し方式を採用しているので、フォーカスを無限遠方向に合わせるほど鏡筒が伸長します。とはいっても、フォーカシングの距離が短い焦点距離50mmですから、極端に伸びるわけではありません。
多機能なミラーレス用らしさを感じるのはフォーカスリング。好みの設定を割り当てられる「コントロールリング」を兼ねていて、レンズ左手側に、フォーカスとコントロール機能を切り替えるスイッチが備わっています。
フォーカスを無限遠に合わせたところ。全群繰り出しなのは、標準レンズの歴史を踏襲しているように感じられて何だかうれしくなります
専用のレンズフード「ES-65B」は残念ながら別売りです。低価格なレンズですが作りはしっかりとしているので、性能を最大限に発揮するためにも、ぜひレンズフードを購入して活用してほしいと思います。2024年9月24日時点での価格.com最安価格は2,310円(税込)。低価格なレンズ用のフードとしては立派な作りで、ロックボタンまで備わっています。
残念ながら別売りのレンズフード「ES-65B」。ロックボタンを備えた高品位な作りです ※本画像はフードの取り付け位置が左右逆になっています。取り扱い説明書には、フードの取り付け方として、レンズ先端の赤い指標にフードの赤い位置マークを合わせて回転させるように記載されています
昔ながらの写りが楽しめるオーソドックスな光学性能
続いて、「RF50mm F1.8 STM」の解像性能を確認していきましょう。
絞り値F1.8で撮影
EOS R8、RF50mm F1.8 STM、50mm、F1.8、1/1000秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
上の写真は、開放絞り値のF1.8で撮影しました。中央部のピント面はシャープネス、コントラストともに申し分ありません。周辺部分になるとやや解像感が低下し、四隅では比較的はっきりと像が乱れます。しかし、低価格な50mmレンズとしては、絞り開放でも十分に実用的な解像性能だと思います。
ピント面から外れると軸上色収差の影響か、エッジ周りにパープルフリンジとハロ(高輝度部周辺に発生する光の滲み)が見られます。EDレンズなどの採用がないので仕方のないことですが、個人的には現代の高性能レンズでは見られなくなった、懐かしい写りのレンズだと感じました。
絞り値F2.8で撮影
EOS R8、RF50mm F1.8 STM、50mm、F2.8、1/400秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
そんな周辺部の解像感の弱さもF2.8くらいまで絞れば、四隅を除いた画面の広範囲でほとんど解消されます。F2.8といえば高性能な標準ズームの開放絞り値と同じ。ちょっと絞っただけで高性能ズーム並みの画質が得られるのは、単焦点レンズの強みと言えるのではないでしょうか。
光学設計は一眼レフ用の「EF50mm F1.8 STM」とは異なるものの、昔ながらの対称形を基本とした比較的オーソドックスなタイプのものです。それだけに、かつては常識だった「(絞りを)開けばやわらかく、絞ればシャープに」という、絞り値による写りの変化や効果を現代でも楽しむことができます。それでも、往年の50mmレンズに比べれば断然高い解像性能がありますので、実用性という意味でも安心して使えます。
大きなボケを生かせる大口径
大口径・単焦点レンズの魅力のひとつは、開放絞り値が明るいため大きなボケを得やすいことです。「RF50mm F1.8 STM」の開放絞り値はF1.8。カメラ本体とセットで用意されるキットズームと比べると、「RF50mm F1.8 STM」のほうが圧倒的にボケのある写真を楽しめます。
たとえば、今回組み合わせた「EOS R8」のキットズーム「RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM」(焦点距離50mmでの開放絞り値はF6.3)と比べると、「RF50mm F1.8 STM」は4段近く明るいです。これだけでも、このレンズに価値を感じるのではないでしょうか。
EOS R8、RF50mm F1.8 STM、50mm、F1.8、1/250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
ボケのある写真は、どこにピントを合わせたかったのか、何を主体にしたかったのかが明確になって気持ちいいですね。筆者も初めて50mmの単焦点レンズを使った時は、できあがってきたプリント(当時はフィルム時代)を見て、「プロみたい!」とテンションが上がったものです。
EOS R8、RF50mm F1.8 STM、50mm、F1.8、1/1000秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
ただ、被写界深度が浅く、ボケ量が大きくなるほど、ピント合わせが難しくなるのが実際のところ。しかし今はミラーレスが全盛。昔に比べれば、大口径レンズの絞り開放でも、狙ったところへより正確にピントを合わせられます。
なぜミラーレスだとピントが合わせやすいのかについては、以下の記事「ミラーレスカメラ全盛の今、大口径・単焦点レンズを使うべき理由」をご覧ください。
EOS R8、RF50mm F1.8 STM、50mm、F4、1/160秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
本レンズは、近接撮影性能がすぐれているのも特徴です。最短撮影距離は、一眼レフ用の「EF50mm F1.8 STM」と比べて5cm短縮された30cm。被写体にグッと寄って大きく写せるため、上の作例のような花の写真やテーブルフォトなどにも重宝します。
ただし、近づいたことによって予想外にボケが大きくなることがあるため、その場合は、必要に応じて、適切な被写界深度となるように絞りを調整することをおすすめします。写真の勉強になりますね。
APS-C機だと中望遠レンズとして楽しめる
「RF50mm F1.8 STM」はフルサイズ対応のレンズですが、「EOS Rシリーズ」のAPS-Cミラーレスと組み合わせても、もちろん問題なく使えます。ただし、APS-Cはフルサイズよりも撮像素子のサイズが小さく、ひとまわりトリミングされた状態で記録されます。
キヤノンの場合、APS-C機では焦点距離の1.6倍相当の画角となります。本レンズは焦点距離が50mmですので、APS-C機に装着すると焦点距離80mm相当の中望遠レンズになるわけです。
APS-Cミラーレス「EOS R100」と組み合わせたイメージ
フルサイズ機「EOS R8」で撮影
EOS R8、RF50mm F1.8 STM、50mm、F1.8、1/100秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
APS-C機「EOS R100」で撮影
EOS R100、RF50mm F1.8 STM、50mm(80mm相当)、F1.8、1/100秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
上の2枚の写真は、「RF50mm F1.8 STM」を使って、フルサイズ機「EOS R8」とAPS-C機「EOS R100」で同じ被写体を撮影したものです。ほぼ同じ位置から撮影していますが、フルサイズ機は焦点距離50mm、APS-C機は焦点距離80mm相当で、画角の違いがおわかりいただけると思います。
焦点距離50mmは標準画角と呼ばれており、自然な遠近感で撮れます。いっぽう、焦点距離80mm相当は中望遠域で、わずかに圧縮効果が効くのがポイント。中望遠は被写体の形が端正に写るためポートレート撮影によく使われます。
APS-C機「EOS R100」で撮影
EOS R100、RF50mm F1.8 STM、50mm(80mm相当)、F1.8、1/250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
このほかの特徴を作例で紹介
フルサイズ機「EOS R8」で撮影
EOS R8、RF50mm F1.8 STM、50mm、F4、1/250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
改めて使ってみると、焦点距離50mmの画角はやっぱり遠近感が自然で、構図を決めやすいことを強く感じます。さすが標準レンズとされるだけあって、ここはズームレンズばかり使っているとなかなか気づけないところでもあります。
APS-C機「EOS R100」で撮影
EOS R100、RF50mm F1.8 STM、50mm(80mm相当)、F1.8、1/640秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
上述のとおり、APS-C機での画角はポートレートに向いた中望遠。遠すぎず近すぎない撮影距離を保ちながら、被写体を歪みなくきれいに撮れるので、案外スナップ撮影での「切り撮り」に便利です。標準ズームの望遠端を多く使う人は、こちらのほうが向いているかもしれません。
フルサイズ機「EOS R8」で撮影
EOS R8、RF50mm F1.8 STM、50mm、F1.8、1/640秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
50mmの画角らしく、目前を悠々と歩き去る猫を周りの状況とともに撮れました。これは「EOS R8」が持つ高度な被写体検出機能のおかげ。「RF50mm F1.8 STM」は最新の「RFレンズ」ですので、カメラボディが持つ被写体検出機能やボディ内手ブレ補正機能にしっかり対応してくれます。
APS-C機「EOS R100」で撮影
EOS R100、RF50mm F1.8 STM、50mm(80mm相当)、F2.8、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
仕上がり設定「ピクチャースタイル」を「モノクロ」にしての撮影です。単焦点レンズは画角が固定なので、被写体を適切なサイズに収めるために、自分の足を使って距離を調整する必要があります。実はこれ、写真撮影では基本的でとても大切なこと。面倒だけど面白い、それを感じられるのが単焦点レンズである本レンズの醍醐味だと思います。
まとめ 標準画角を覚えるのに打って付けのレンズ
今回「RF50mm F1.8 STM」を改めてじっくり使ってみて、このレンズが人気を集めているのは、やはり、開放絞り値F1.8の大口径ながら手に入れやすい価格を実現していることが大きいと感じました。
しかし、安かろう悪かろうでは人気を維持できるはずがありません。本レンズは、開放F1.8の明るさを持ちながら、実用性の高い描写性能を兼ね備えています。ステッピングモーター(STM)を採用し、最新ミラーレスの高性能AFとも相性良好。最新ミラーレス用の大口径レンズとして必要十分な性能と機能を持っており、「撒き餌レンズ」と呼ばれた一眼レフ用から、コストパフォーマンスの高さをしっかりと受け継いでいるのです。
焦点距離50mmは標準とされる画角で、これより長いと望遠側、短いと広角側と、一般的には言われています。初めて単焦点レンズを手に入れようという人にとっては、標準の画角を覚えるためにも打って付けのレンズだと言えます。
加えて、APS-C機では中望遠の焦点距離80mm相当になるのも押さえておきたいポイントです。小型・軽量なのでAPS-Cミラーレスとも組み合わせやすく、APS-C用のコンパクトな中望遠レンズとして活用するのもよいでしょう。
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