「PENTAX 17(イチナナ)」は、リコーイメージングが2024年7月12日に発売したコンパクトフィルムカメラ。予想を上回る人気を集めており、8月18日時点では注文受付を一時停止している状況だ。今回、カメラ歴約30年の筆者が、この話題作をレビュー。スナップ写真の撮影を通じて感じた、「PENTAX 17」の魅力を紹介しよう。
「PENTAX」のフィルムカメラとしては約12年ぶりの新モデル「PENTAX 17」。PENTAXらしさを強く感じるユニークなデザインやアナログ操作に注目してほしいカメラだ
※「PENTAX 17」の詳しい特徴は、以下の関連記事をご確認ください。
魅力1 フィルムカメラらしいアナログ操作
PENTAXは、100年以上の歴史を持つ老舗のカメラブランド。独創性を重視したカメラ作りがうまく、フィルムカメラでもデジタルカメラでも、他メーカーにはないようなユニークな特徴を持つ名機をいくつも商品化してきている。そんなPENTAXが、自身が持つフィルムカメラの伝統的な技術を生かして作ったのが「PENTAX 17」だ。
「PENTAX 17」の大きな特徴として押さえておきたいのが、「フィルムカメラのアナログ操作」にこだわっていること。電子制御で自動化できる部分をあえて機械式にすることで、フィルムの装填や巻き上げ・巻き戻しといったフィルムに関わる操作を、すべて手動で行うようになっているのだ。
フィルムの装填は、まず巻き戻しノブを引き上げて裏ぶたを開く
裏ぶたを開いたら、左側のフィルム室にフィルムを入れ、オレンジ色のマークの位置にフィルムのベロを合わせる。裏ぶたを閉めて巻き戻しノブとクランクを戻したら、フィルムカウンターが「0」の位置になるまでレバーを何度か巻き上げる。これで撮影できるようになる
実際に使ってみて、このアナログ操作は「PENTAX 17」の外せない魅力だと感じた。レバーを右に回転させてフィルムを巻き上げないとシャッターが切れないのは、機械式のフィルムカメラだからこそ。巻き上げ時に指に伝わるフィルムのわずかな抵抗を感じながら1枚1枚を撮っていくのが、とても心地よかった。
1回の撮影ごとにフィルムを巻き上げてシャッターをセットする。機械式のフィルムカメラならではのレバー操作だ
フィルム感度の設定ももちろん手動。巻き戻しノブの位置にあるISO感度ダイヤルを使って設定する
魅力2 ゾーンフォーカスで気軽に撮れる
「PENTAX 17」は、フィルムカメラに興味がある若年層をメインターゲットに定めて開発されたカメラだ。ケーブルスイッチを使ったバルブ撮影など、こだわった撮影に対応できるものの、基本的には、より気軽に撮影を楽しむことを重視した設計を取り入れている。
気軽さの点で特に特徴的なのが、「ゾーンフォーカスによるピント合わせ」を採用していること。狙った位置に明確にピントを合わせるのではなく、ざっくりとピントが合う範囲を選ぶ仕組みだ。具体的には、遠距離(5.1m~無限遠)からクローズアップ(0.24m~0.26m)まで6種類の段階的なゾーン(ピントが合う範囲)を専用リングで選択する。
6段階のゾーンフォーカス方式を採用。レンズ部のリングを回して設定する。搭載するレンズは、焦点距離25mm(35mm判換算37mm相当)/開放絞り値F3.5の単焦点レンズだ
目測でゾーンを選択する必要があるため使いこなすのが難しいと思うかもしれないが、「PENTAX 17」の仕様を考慮すると、このゾーンフォーカス方式はとても理にかなっている。
というのも、「PENTAX 17」は、35mm判を半分に分割するハーフサイズフォーマット(17×24mm)と、開放絞り値F3.5の暗い広角レンズを採用しており、基本的に被写界深度が深く、クローズアップ撮影を除けば、そこまでピント位置にこだわる必要がないのだ。
特に、適度な距離感が大事な屋外でのスナップ撮影では、ゾーンフォーカスの「遠距離(5.1m~無限遠)」か「中距離(2.1m~5.3m)」のどちらかを選べば大体ピントが合う。この2ゾーンを直感的に切り替えながらの撮影はリズムがよく、使っていて楽しかった。
光学ファインダーでリアルな景色を見ながら、細かいピント位置は気にせずに、撮りたいときにシャッターを切る。「PENTAX 17」を使ってみて、シンプルに写真を撮る行為がとても心地よく感じた次第だ。
凝縮感のあるデザインのボディ上面。ファインダー右側のモードダイヤルで撮影モードを選択する。撮影モードは、フラッシュ自動発光の「フルオート撮影」、フラッシュ非発光の「標準撮影」のほか、「低速シャッター撮影」「絞り開放優先撮影」「バルブ撮影」といった、こだわった撮影が可能なモードも用意されている。露出補正は、ファインダー左側の専用ダイヤルを使って±2EV(1/3EVステップ)の範囲で設定できる
ちなみに、「PENTAX 17」は、「絞り開放優先撮影」「バルブ撮影」の撮影モードを除いて、露出は基本的にカメラまかせだ。絞り値を自由にコントロールできるわけではなく、シャッタースピードが最速1/350秒と遅いため、明るい屋外では絞った状態になることが多くなる(と考えられる)。
使いこなしとしては、フラッシュ自動発光の「フルオート撮影」モードだとゾーンフォーカスが働かず、被写界深度を深く取ったパンフォーカスに固定される点は知っておきたい。ゾーンフォーカスでピント位置を調整したい場合は、フラッシュ非発光の「標準」モード、もしくはフラッシュ強制発光の「日中シンクロ」モードを選択しよう。
魅力3 ハーフサイズの縦位置撮影
「PENTAX 17」の特徴としてもうひとつ押さえておきたいのが、先の項でも触れたハーフサイズフォーマット(17×24mm)を採用していることだ。35mm判のフィルム1コマを左右2コマに分割する仕組みなので、36枚撮りのフィルムなら倍の72コマ撮れるのがメリットである。
巻き上げレバー横のフィルムカウンターは「72」まで用意されている。実際に使ってみると、1本のフィルムで最大72枚というのは「結構撮れる」という印象だ
ハーフサイズフォーマットは、倍のコマ数を撮れることに加えて、カメラを正位置(横)で構えると縦位置構図になるのも見逃せないポイント。縦に構えれば横位置で撮れるものの、このカメラは縦位置で撮ったほうが断然面白い。筆者は普段、スナップ写真については横位置しか使わないこともあって、正位置でファインダーを覗いて縦位置でフレーミングするのが新鮮だった。
ファインダー内を撮影した画像。ハーフサイズフォーマットなので、カメラを正位置で構えると縦位置構図になる。ファインダー内の外枠は通常撮影時の視野枠、内枠は近距離撮影時の視野補正枠。ファインダーの下部には、ゾーンフォーカスリングのアイコンが大きく表示される
以下に、「PENTAX 17」とネガフィルムを使い、3枚の組写真を意識して撮影した縦位置構図の写真を掲載しよう。
屋外で撮ってみた限りでは、全体的に抜けがよく、思った以上に周辺まできっちり写る印象。この写りのよさは、マルチコーティング「HDコーティング」を施した単焦点レンズ(焦点距離25mm:35mm判換算37mm相当、開放絞り値F3.5)を採用していることが大きいのだろう。
※フィルムのデジタルデータ化は、ニコンの「フィルムデジタイズアダプター ES-2」を使用しました。
今回使用した4本のネガフィルム。カラーは「ColorPlus 200」を、モノクロは定番の「TRI-X 400」を使ってみた。10年以上前に購入した古いフィルム「VISTA 200」と「T-MAX 100」も試してみたが、さすがに通常の発色やコントラストは得られなかった。特にカラーネガの「VISTA 200」はほとんど色が出ない結果に。古いフィルムを使う場合は露出を明るくすることでそれなりに撮れることもあるが、使用期限が切れて何年も経過したものはなかなか難しい
フィルムのパッケージの切れ端を入れておけるメモホルダーを用意。フィルムカメラでは定番の機能だ
カラーネガフィルム「ColorPlus 200」で撮影
組写真1/3、PENTAX 17、ColorPlus 200
組写真2/3、PENTAX 17、ColorPlus 200
組写真3/3、PENTAX 17、ColorPlus 200
モノクロネガフィルム「TRI-X 400」で撮影
組写真1/3、PENTAX 17、TRI-X 400
組写真2/3、PENTAX 17、TRI-X 400
組写真3/3、PENTAX 17、TRI-X 400
参考:モノクロネガフィルム「T-MAX 100」で撮影
(※10年以上前に購入したフィルム)
※デジタルデータ化する際に明るさを調整しているためノイズ量が増えています。
組写真1/3、PENTAX 17、T-MAX 100
組写真2/3、PENTAX 17、T-MAX 100
組写真3/3、PENTAX 17、T-MAX 100
まとめ ミラーレスユーザーに使ってほしいフィルムカメラ
今回「PENTAX 17」を使ってみて、この製品は、フィルムカメラに興味がある若年層(「PENTAX 17」のメインターゲット)だけでなく、過去にフィルムカメラを使っていた写真趣味層にも選んでほしいカメラだと感じた。
とにかく、難しいことを考えずにフィルムカメラのアナログ操作と撮影を楽しめるがよい。光学ファインダーを覗きながらゾーンフォーカスで気軽にシャッターが切れるし、ハーフサイズフォーマットの縦位置構図も面白い。重量290g(フィルムと電池を除く)の軽量ボディなので、持ち運びの負担が少ないのも魅力だ。サブのスナップカメラとして使うのもよいだろう。注文受付を一時停止しているためすぐには手に入れられないが、直販価格が88,000円(税込)と比較的手に入れやすい価格なのもうれしい。
もし、過去にフィルムカメラを使っていた人で、今ミラーレスカメラで撮っていて「記録される映像を見ながらシャッターを切る」ことに面白味を感じないときがあるのなら、「PENTAX 17」は原点に立ち返るうってつけのツールになることだろう。フィルムを現像するまで結果がわからない「写真撮影の醍醐味」を思い出させてくれるはずだ。
「It's Time for Film!」のメッセージが書かれた「PENTAX 17」のパッケージ
フィルムを気軽にデジタルデータ化できる便利ツール
ニコン「フィルムデジタイズアダプター ES-2」
本記事で掲載したフィルム作例は、ニコンの「フィルムデジタイズアダプター ES-2」を使ってデジタルデータ化したものだ。
このアダプターは、対応のデジタル一眼カメラを使ってフィルムを直接撮影するのが特徴。対応のマクロレンズの前面に専用ホルダーを装着して、フィルムをクローズアップ撮影する仕組みだ。ネガフィルムを使う場合は画像処理に慣れが必要だが、気軽に高画素なデジタルデータにできるのは便利だ。
「フィルムデジタイズアダプター ES-2」を使っている様子。専用ホルダーにフィルムを取り付けて撮影する。Zマウントレンズでは「NIKKOR Z MC 50mm f/2.8」が対応している
同梱品の一覧。ストリップ状フィルムとスライドマウントしたフィルムの両方に対応できるように2種類のホルダーが用意されている
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